〔声が聞こえない(無視する)〕

haruくんも、幼少期、声が聞こえていないのか、無視しているのか、と思うときがありました。

1歳半検診のときに、「後ろからの声かけに反応が鈍い」ということで、耳鼻科で聴覚検査を勧められました。そのときは聴覚には異常がないということで安心したのですが、他の原因を疑っておけば、もう少し早く障害を発見することができたのかもしれません。

自閉症の子どもの場合、視覚入力に優れた子どもが70%くらい、聴覚入力に優れた子どもが10~20%くらいと言われています。

視覚入力に優れている子どもの場合、その裏返しとして、聴覚入力、つまり、耳から入ってくる言葉かけに対する反応が苦手な子どもが多いようです。


〔当事者の立場から〕

自閉症当事者の東田直樹さんは、その著書の「自閉症の僕が飛び跳ねる理由」で次のように述べています。

「声だけで人の気配を感じたり、自分に問いかけられている言葉だと理解したりすることは、とても難しいのです。
声をかける前に名前を呼んでもらって、僕が気づいてから話しかけてもらえると助かります。」

また、東田さんは、同じく著書の「続・自閉症の僕が飛び跳ねる理由」では次のように述べています。

「声は、どこから聞こえてくるのでしょう。それは頭の上からなのか、背中の方からなのか、それとも僕の目の前からなのか、僕にはとても謎なのです。
そうしてみんなが、誰かの声を聞いてそちらに向けるのかわかりません。声が聞こえてくることに気づき、それが自分に向けられている言葉だと判断して、すぐ相手に答えられることが信じられません。」

「音というものは、僕にとっては全て同じです。人の声だからと意識するのは無理です。好きな音や嫌いな音があるだけで、音は向こうからやってくるものです。自分から声を探すことは、僕にはできません。」

 

それから、自閉症当事者のテンプル・グランディンさんは、その著書の「自閉症の才能開発」で次のように述べています。

「私の耳はすべての音をそのまま拾い上げるマイクロフォンみたいなものだから、二人の人が同時にしゃべっていると、片方の声を意識外に押し出し、もう一人の声に耳を傾けるようということが難しい。

普通の人は、聞くべき音だけを拾い上げる高指向性マイクロフォンのような聴覚を持っているが、私は環境音を閉め出すことができないので、喧噪な場所では、人の話を理解できない。

子どものころは、騒音と人声が入り交じっている場所では、よくかんしゃくを起こしたものである。」

また、グランディンさんは、同じく著書の「我、自閉症に生まれて」では次のように述べています。

「成人した現在でも、私は騒がしい空港で待っている間、環境音シャットアウトして読書にふけることができるが、空港の騒音を押しのけて電話で話をするのは不可能に近い。」

成長に伴い、特性と折り合いを付けるようになることはできるようになってくるけれども、特性がなくなるわけではないということだと考えられます。

(2021年6月30日)