〔自傷行為〕

自閉症児は、ときどき自分の頭を叩こうとすることがあります。叩く道具となるのは自分の手のときもあれば、他者の体にぶつけてくるときもあるし、壁や床に打ち付けようとすることもあります。

また、叩く箇所は、頭のほかに、手や足であることもありますし、その他にも、首筋や腕をひっかいたり、手や腕に噛みついたり、自分の唇を噛むということもあります。

こういった行為をまとめて、広い意味での「自傷行為」と言います。


〔自傷行為の原因〕

その原因として考えられることは複数存在します。

主な原因としては以下のようなものがあります。

1 ストレスや不安の発現

自閉症や発達障害の子どもは、ストレスや不安を感じたときの対処方法が分からなくなり、その不安の発現として、自傷行為に及んでしまうことがあります。

それは、気持ちを落ち着かせるために自分を叩く場合もあれば、他の不快感(嫌な音が聞こえたとか、急に予定が変わったとか、いつもしていることができないとか)を紛らわせるために自分を叩く場合もあります。

また、もっと負荷をため込んだ場合、ストレスが爆発し、パニック状態になって、頭を叩くにしても強く打ち付けたり、出血するくらい自分を噛んだりするなどの強い自傷行為に及ぶことがあります。

2 コミュニケーションの困難性の発現

自傷行為の原因として、コミュニケーションの困難性も挙げられます。

上手く自分の意思や要求を伝えることができない場合に、周りの人の気を引くために自分を叩くことや、要求を通すために自傷行為に及ぶことがあります。

また、上手く意思や要求を伝えることができないもどかしさから自傷行為に及ぶこともあり、こちらの場合は、コミュニケーションの困難性が、前述のストレスや不安に繋がって、その結果としての自傷行為になります。

3 余暇活動、感覚遊びとしての自傷行為

自閉症の子どもは、暇つぶし(いわゆる余暇活動)が苦手が子が多く、暇を持て余してしまうので、痛覚が鈍い特徴を有する子の場合、感覚遊びの一環として自分で叩くことがあります。

4 こだわり(常同行動、反復性行動)の一つとしての自傷行為

また、自傷行為がそれじたい自閉症のこどものこだわり(常道行動、反復性行動)の1つになってしまっている場合もあります。


〔対応方法〕
1 原因を見極める

自傷行為に対する対応方法としては、まずはその原因を見極めることが必要です。

自傷行為を行った「状況」、具体的な「行動内容」、それによって生じた「結果」を覚えておいて(記録できるとなお良いです)、複数の自傷行為から、共通性を見いだします。

なお、上記の複数の原因が複合している場合もあります。

2 自傷行為に及ばなくてすむ方法を用意する

自傷行為の原因を見極めた場合、まずは、自傷行為に及ばなくてもすむ方法を考えます。

例えば、自傷行為の原因が、余暇活動、感覚遊びとしての自傷行為である場合、異なる暇つぶしや遊びを用意するといったことが考えられます。

また、自傷行為の原因が、ある特定の要因に基づく不安にある場合、その要因自体を取り除けるのであれば、取り除きます。

例えば、予定が分からないことに対する不安が原因なのであれば、スケジュールの可視化などで予定が分かりやすくしてあげる等です。

また、コミュニケーションの困難性が原因であれば、絵カード等のコミュニケーションの手段を用意することで少しずつ原因が解消されることもあるでしょう。
3 自傷行為に及んだ場合の対応を用意する

実際には、直ちに自傷行為の原因を取り除ける場合はそんなに多くないと思われます。

その場合、自傷行為に及ぶことがありえることを前提に対応を用意することが必要となります。

例えば、パニックになった場合にクールダウンするための場所を用意するのも1つですし、頭の打ち付ける程度によっては、頭に保護具を付けたり、逆にいつもぶつける対象となっているものを柔らかい素材にするのも方法でしょう。

こどわり(常道行動、反復性行動)となっている場合、行動の流れを変えるようにしてみるのも考えられる方法です。


〔当事者の立場から〕

当事者の目線で言うと、自閉症当事者の東田直樹さんは、その著書の「あるがままに自閉症です」で次のように述べています。

「僕はこだわりを我慢しようとすると、それをやりたい気持ちと我慢したい気持ちがぶつかって、怒りの感情がふきだしてしまうことがあります。そうなると、自分の頭を叩きます。
気持ちはきちんとしたいのに、脳がそれを邪魔するからです。普通の人なら、そんなことにはならないでしょう。僕は脳に腹を立てて、つい自分の頭を叩いてしまうのです。」

haruくんはコロナ前は、自分の手で自分の頭を叩くことがありましたが、harusoraはこの描写をみて納得しました。たしかに、上手くいかない自分に腹を立てているように思えていたからです。

新型コロナウイルスが広がってからは、ちょっとたたき方が激しくなりました。ストレスを感じているのだと思います(また機会があれば、書きたいと思います)。

(2021年3月17日)