「知的障害」という言葉には医学用語としての意味と、法律用語としての意味があり、以下では、それぞれについて説明します。

【医学用語としての「知的障害」】

〔日本における一般的理解(厚生労働省ウェブサイトによる)

〔知的障害の定義〕

「知的障害」とは、発達期に発症し、概念的、社会的、実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害のことです。医学上、「精神遅滞」と同じものを指します。

すなわち

「1. 知能検査によって確かめられる知的機能の欠陥」と

「2. 適応機能の明らかな欠陥」が

「3. 発達期(おおむね18歳まで)に生じる」

と定義されるものです。

そして、通常、知能指数(IQ)70以下を知的障害として扱います。

(以上につき、厚生労働省ウェブサイトの「e-ヘルスネット > 情報提供 > 休養・こころの健康 > 心身の不調 > 知的障害(精神遅滞)」のページ〔外部ページ〕)


〔知的障害の程度〕

知的障害は、最重度、重度、中度、軽度の4段階に区分され、基本的にはIQに応じて、次のように分類されます。

  • 最重度・・・ おおむねIQ20以下
  • 重度 ・・・ おおむねIQ21~35
  • 中度   ・・・ おおむねIQ36~50
  • 軽度 ・・・ おおむねIQ51~70

そのうえで、日常生活能力も勘案して、日常生活能力に特に優れている場合、1ランク軽度の知的障害と扱われ、逆に、日常生活能力に特に劣っている場合、1ランク重度の知的障害と扱われます。

図表化すると、このようになります。

(以上につき、厚生労働省ウェブサイトの「知的障害児(者)基礎調査:調査の結果」のページ〔外部リンク〕)


〔DSM-5における理解〕

〔用語〕

DSMー5においては、知的障害は、「Intellectual Disability(Intellectual Developmental Disorder) 知的能力障害(知的発達障害)」と表現されます。

なお、DSM-Ⅳまでは、「mental retardation 精神遅滞」という用語が用いられていました。

〔定義〕

DSMー5においては、「知的能力障害は、発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害である。」とされます。

〔診断基準〕

DSM-5における診断基準は、以下の3点を満たすことであるとされます。

A 知的機能の欠陥

  知的能力の判定においては、知能指数(IQ)検査のみに頼ることには懐疑的です(神経心理学的検査に基づく個別の認知プロフィールは、IQ得点1つだけよりも知的能力を理解するために有用である、としています。)。

  また、重症度はIQ値よりも適応機能により決定されるとされています。

B 適応機能の欠陥

適応機能は3つの領域、すなわち概念的領域、社会的領域、実用的領域の状態で示すことが指示されています。

  1. 概念的領域:記憶、言語、読字、書字、数学的思考、実用的な知識の習得、問題解決、および新規場面における判断においての能力についての領域
  2. 社会的領域:特に他者の思考・感情・および体験を認識すること、共感、対人的コミュニケーション技能、友情関係を築く能力、および社会的な判断についての領域
  3. 実用的領域:特にセルフケア、仕事の責任、金銭管理、娯楽、行動の自己管理、および学校と仕事の課題の調整といった実生活での学習および自己管理についての領域

C 知的及び適応の欠陥は発達期の間に発症する


【法律用語としての「知的障害」】

〔定義規定の不存在〕

〔障害者総合支援法及び知的障害者福祉法〕

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)は、その4条1項で「障害者」を定義づけており、「この法律において『障害者』とは、・・・知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち18歳以上である者・・・」としています。

ところが、知的障害者福祉法のどこを見ても、知的障害者の定義は書かれていません。

事実上、療育手帳の交付を受けた者が、障害者総合支援法及び知的障害者福祉法における知的障害者として取り扱われているのです。


〔「知的障害」の用語が用いられているその他の法律〕

〔障害者基本法〕

障害者基本法においては、「障害者」を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義しており(障害者基本法2条1項)、「知的障害」の用語を用いています。

〔学校教育法〕

学校教育法は、特別支援学校(いわゆる養護学校です。)について定めた72条において、「特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。」として、「知的障害」の用語を用いています。

また、特別支援学級(通常の学校内に設置されたいわゆる「支援学級」です。)について定めた81条1項2項でも「知的障害」の用語を用いています。

「精神遅滞」とは
「知的障害」と「発達障害」の関係

(2020年8月14日)

(2020年8月16日、18日、23日加筆)