〔障害の「医学モデル」と「社会モデル」〕
障害の「医学モデル」というのは、障害のある人が日常・社会生活で制限を受ける原因を個人の心身の機能の障害に求める考え方のことです。旧来の考え方は、こちらだったように思います。
これに対して、障害の「社会モデル」というのは、障害のある人が日常・社会生活で受ける制限は、心身の機能の障害のみならず、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるという考え方のことです。
〔世界的潮流は「社会モデル」〕
かつて、アメリカ合衆国では1964年に成立した「アメリカ公民権法」により、人種、肌の色、信仰、性別、出身国による差別を禁止していましたが、障害を持つ者に対する差別に関する法律はありませんでした。
しかし、1990年に、障害を持つアメリカ人法(ADA:Americans with Disabilities Act)が制定され、障害者差別を禁止するようになりました。
当時のジョージH. W.ブッシュ大統領は、同法の署名時に、「ついに恥ずべき排除の壁を打ち崩そう」と述べたと言われています。
また、2001年の国連総会は、同年9月11日の「同時多発テロ」を受けて、反テロリズムの強い空気のもとで開催されました。障害者の権利条約が必要であることを主張したメキシコのフォックス大統領は、同総会の一般討論演説の最後で次のような主旨の発言をしています。
「最も脆弱な集団の排除を許容したまま、公正な世界の実現は望めない。だからこそ、メキシコは障害者の権利条約策定のための特別委員会設置を提案したのだ。」
「テロリズムとの闘いと、開発の促進が今日の発言の焦点であり、これこそが国連の新たな歴史の始まりとなるだろう。」
こうした障害を貧困と社会的排除という文脈に取り込んだメキシコの積極的な主張が推進力となり、同年の国連総会では、「障害者の権利条約」の策定に関する諸提案を検討するための特別委員会の設置を決定しました。
〔障害者基本法、障害者差別解消法は「社会モデル」〕
2011年8月5日に改正された障害者基本法及び2016年4月1日から施行された障害者差別解消法(正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といいます。)も、このような国際的潮流に沿い、社会モデルの考え方に立っています。
すなわち、障害者基本法2条1号及び障害者差別解消法2条1号は、「障害者」を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」と定義しています。
この条文を分解すると、
「障害」・・・身体障害、知的障害、精神障害その他の心身の機能の障害
「障害者」・・・「障害がある者」で「『障害』+『社会的障壁』」により「継続的に」「日常生活or社会生活」に「相当な制限を受ける状態」にあるものとなります。
そして、障害者基本法2条2号及び障害者差別解消法2条2号は「社会的障壁」を、「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義しています。
この考え方は、障害者のハンディキャップをその個人の内なる問題としてではなく、それを取り巻く社会の問題として捉えるものです。
このようにして障害を捉えることにより、社会に対し、障害者に対する差別的取扱の禁止や合理的配慮が求められることになります。
→「障害者」か「障がい者」か
(2020年9月17日)