〔クレーン現象〕
クレーン現象とは、自閉症の子どもが、自分の欲しい物を取りたいときに、人の手を掴んで、その手を取りたい物の近くに持って行き、人の手を使って取る現象のことです。
健常児(定型発達のお子さん)が、指さしで要求行動を行うことを、自閉症児はクレーン現象で行います。ですので、療育としては、まずは指さしができるようになることを目指すことになります。
一般的には、自分の手の届かない場所のものを取って欲しいときに、クレーン現象が発現します。
例えば、haruくんの場合、高いところにある物を取って欲しいとき、harusoraの手を取ってその物が置いてある台の側まで連れて行き、harusoraの手を上の方に持ち上げていました。
もっとも、人によっては、手の届くところにある物についても、自分の手で取らずにクレーン現象が発現する場合もあるようです。
〔医師の立場から〕
医師の平岩幹男さんは、その著書の「自閉症スペクトラム障害」で次のように述べています。
「クレーン現象は、言葉が使えないので動作で要求を実現させようとするものです。
例えば、喉が渇いたら、母親の手を取って、冷蔵庫のところまで連れて行くといった動作です。
クレーン現象が出ている時期には指さしして要求することができませんので、指さしを教えることで、かなり減ってきます。
クレーン現象は、カナー型の自閉症では代表的な症状とされていますが、クレーン現象があるということは、要求の意思が出ているということなので、療育的な対応はより有効である場合が多いと感じています。」
〔当事者の立場から〕
当事者の目線から言うと、自閉症当事者の東田直樹さんは、その著書「あるがままに自閉症です」の中で、次のように述べています。
「僕にとっては、物を取るのと意識して物を手に入れるのは全く別のことだった」
「物を取るということは『手が物をつかむ』ことです。そのシーンを再現するためには、人の手でなければならなかったのです。」
「それが、自分で取る動作と同じだと言われても、物を取る時の手の角度も、物が運ばれる方向も違うので最初はとまどいました。」
(2020年12月7日)